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2杯目 アトピー性皮膚炎のとらえ方のパラダイムシフト:フィラグリン遺伝子異常

アトピー性皮膚炎と十把一絡げで呼ばれている皮膚状態は,同じように見えても,その成り立ちは,あるいは悪化要因は様々と考えられます。

  乳児期には食物アレルギーがきっかけで悪化する子どもさんが多いのは確かです。しかし,血液検査で卵やミルクに対するIgE抗体が見つかっても,消化管がしっかりしてくれば,例えそれらを食べても大丈夫になります。蛋白質はアミノ酸に分解されればアレルゲンとはならないのです。

  1歳半くらいでアトピー性皮膚炎の有病率が少し下がるのは,食物アレルギーが余り関わらなくなるためと考えられます(図)。では,3歳くらいでまた有病率が上がるのはなぜでしょう? 

  最近,アトピー性皮膚炎の患者さんでは,皮膚のバリア機能を保つのに大切なフィラグリンという蛋白質の遺伝子に異常があることがわかり,アトピー性皮膚炎の研究の方向性が大きく変わりつつあります。フィラグリンという物質は,表皮の角化細胞が角質を形成するときに,ケラチンという線維蛋白を凝集させ,その後は分解されてアミノ酸となり,角質細胞内で天然保湿因子として,角層の水分保持に働いています。

  ことの始まりは,尋常性魚鱗癬という皮膚がカサカサの鱗状になる皮膚病の原因遺伝子を調べたところ,フィラグリンの遺伝子に異常があることが発見されたことです。昔からアトピー性皮膚炎に尋常性魚鱗癬がしばしば合併することはよく知られていました。そこで,アトピー性皮膚炎患者さんでフィラグリン遺伝子の異常があるかどうか調べてみたところ,驚くことに欧米では約半数,日本人では約3割の方に,フィラグリン遺伝子の異常が見つかったのです。 

  これまで,アトピー性皮膚炎患者さんでアレルギーや免疫に関連する遺伝子の異常を調べても,はっきりとした関連を持つ遺伝子は見つからなかったのですが,皮膚のバリア機能に深く関わるフィラグリン遺伝子の異常が見つかったことで,アトピー性皮膚炎の成り立ちについての考え方の転換期を迎えました。すなわち,アレルギーが先にあるのではなく,皮膚のバリア機能の異常がまずあって,その結果,アレルギー感作が起こりやすくなるという考え方です。もちろん,アレルギーがなくてもバリア機能が悪ければ,いろいろな刺激で皮膚症状は悪化します。 

  赤ちゃんの時からしっかりとスキンケアをし,アトピー性皮膚炎を良い状態にしておけば,元々自然に治る病気ですので,心配はないのですが,バリア機能を悪いままにしておくといろいろなアレルゲンが皮膚から侵入して,アレルギー感作が起こり,喘息や,鼻炎を起こす,いわゆるアレルギーマーチが始まるという考えが提示されています。

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